第一話  叔父さんの恋

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 理由は昨日にある。  二人はユキさんが焼いたアップルパイを持って、久しぶりにファラ教授を訪問した。昨年から通い出した特別なカリキュラムを提供する塾のことで、相談があったからだ。  そこの指導教員が、アメリカへの留学を二人に提案した。  「日本ではいきなりの飛び級は難しい。だが君たちにはこれ以上、タラタラと学校の授業を受け続ける苦痛は耐えられないだろう」  そこが双子の弱点だった。色んな友達が出来たのは嬉しいが、先生よりもよっぽど知識が豊富な彼らには、学校が提供する詰まらない授業時間は苦痛で耐え難い。  「ファラ教授に相談しようか、蓮」、湊が呟いた。  頷く蓮。  そこで大樹には内緒で、ファラ教授を訪ねたのだが。まさかそこで、靜恵お祖母さまの幼い頃にそっくりな幼稚園児に出逢うとは。  まさにそれは奇跡だった。  二人は、女には二種類あると思っている。  愛情深いオンナと、自分勝手なオンナだ。残念ながら彼らの母は、後者だった。  大樹の別れた妻で、蓮と湊を産んだ愛実琉(えみる)は。名前もキラキラネームなら、実態も名前以上のきらきらオンナだったらしい。  華から聞いたところでは、大樹はまんまと愛実琉の罠にはまって結婚したのだとか。なんでも意中のカノジョにプロポーズして振られた大樹は、その彼女に当て付ける為に派手に遊んでいたらしいのだが。  その時に偶々知り合った尻軽女の一人が、大樹の子供を妊娠したと告白。つまり意中のカノジョに振られた二ヶ月後には、できちゃった婚をしたことになる。  それが愛実琉(えみる)だった。  だが話は、ここからが本番だ。  妊娠は資産家の御曹司だった大樹をゲットするためについた嘘。新婚旅行から帰って来て三日後に、なんと月の障りが来たのだ。  家じゅうが「すわ流産か」と蒼くなる中、平然と妊娠していないことを吐露したと言うから、大したオンナだ。  だが「大樹が大好きなの。如何してもアナタの奥さんになりたかった」と、涙ながらに口説き落として妻の座に居座った。  それから二か月ほどして、今度は本当に妊娠したのだが。それは愛実琉にとっては計算外の出来事だったようで。  しかも愛実琉のお腹に宿ったのは、なんと双子だったのである。大樹には喜びでも、愛実琉にとってはとんだ悲喜劇の始まりであった。  重い悪阻に気分は最低。  せっかく資産家の妻になったというのに、パーティーどころか、どこにも出掛けられない日々が続いて・・最悪だった。  妊娠が進むにしたがって双子が入っている愛実琉のお腹はどんどんと大きくなり。買ったばかりの豪華な衣装はどれも、妊娠の所為でまるで身体が入らない事態に陥った。  激しいヒステリーの発作を起こした愛実琉に、黒田家の人々は唖然としたらしい。
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