夕映えの柿

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*  祖父の家で私に与えられた部屋は庭に面していた。朝起きたら一番に空気の入れ替えをしろよ、と祖父は言う。自分はもうめんどくさくて億劫でやりたくないから、お前がちゃんと換気をするんだぞ、と。  言われた通りに私は毎朝空気の入れ替えをした。庭には野良犬を殺した柿の木が、あの頃よりも大きく育ってまるでそびえるようだった。  育ちすぎた庭木は街ではトラブルの元になるけれど、隣家に行くのにさえも車を使うような地域のこと、うるさく文句をつけてくる住人はこの辺りには住んでいない。  柿の方もそれを察しているかのように自由にのびのび大きく育つ。見上げれば実もずいぶんたくさん実っていて、これは収穫しないと庭が落ちて潰れた柿だらけになってしまうのでは、と思う。  けれど採ったところで配れる先はあまりない。両親は不仲だからここまで来ないだろうし、ご近所さんだって柿はうんざりするほど採れるだろう。高齢者が多ければ収穫するのだって手間だ。  朝食の席で祖父に言ってみた。 「おじいちゃん、柿、あのままだと全部落ちちゃうよ」  そしたらまた野良犬が死んじゃうよ、と思う。迷いこんで頭が割れて死んじゃうよ。 「落ちてもいいんだ」  祖父はそれだけ言って席を立つ。落ちるのがいいんだ、とでも言うようであった。  いくつもの柿が何人もの祖母の頭に落ちる様が、脳裏に浮かんだ。
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