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――そのころ僕は、十歳になったばかりだった。
かあさんと二人で、小さな牧場を守りながら生活をしていた。
ホルスタインとういう品種の乳牛十二頭が、僕たちの生活の糧。
僕が物心ついた頃、一頭一頭につけられていた名前は確か、花子とか、小百合とか、女の人の名前だったと思う。
でも僕が小学校に通いはじめたとたん、イチゴ、ミカン、リンゴ、メロン、チョコ、キャンディ、モナカ、アイス、パイ、エクレア、ココア、そして最後の一頭の名前が思いつかなかったのか、そのままの『ミルク』に命名されていた。
これらすべて、かあさんがつけた名前で、何故急に名前を変えたのかはわからない。
ただ、名前の由来だけは、はっきりとわかる――かあさんの好きな食べ物、または、飲み物ばかりだ。
夕食前に牛たちの名前を呼んだとたん、グーとお腹が鳴ったり、三歳になった『エクレア』を呼ぶたびに、シュークリームの上にかかったチョコや、口の中にとろりと甘く広がるクリームを思い出しては何度も唾を飲み込んでいた。
まったく、いつも腹をすかしてる僕に、かあさんは罪作りな名前をつけたものだ。
じつは我が牧場にはもう一頭いる、――それはまだ子牛だ。
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