16人が本棚に入れています
本棚に追加
僕とかあさんの生活は、毎日が慌ただしかった。
いつも時間にせっつかされるように生活していた。その時間のほとんどは、牛たちの世話に費やされる。
眠い目をこすりながら毎朝五時に起きると、僕とかあさんは牛舎に向かい、牛たちにデントコーンや牧草の朝食を与え、そのあと、搾乳機で乳搾りをし、乳を入れた金属の容器を外に出して牛舎の横に並べる。
その容器はあの頃の僕には重たすぎて、抱えて持つことができなかった。だから、容器の底を地面につけながらクルクルと両手で回しながら移動させていた。
並べ終えると二人して牛舎から家にもどり、かあさんが朝食の準備をしているあいだ僕はランドセルに教科書を入れたりして小学校に行く準備をする。
光沢のなくなった黒いランドセルは隣町の親戚の浩ちゃんが使っていたものだ。
お古でも学校のクラスのほとんどが兄弟や親戚の子のお古を使っているから、何も気にならない。
確かに表面の皮には何本もの横皺がくっきりとついているけど、十分使えるし、白っぽい線の模様のようになったその皺が意外と気に入っていた。
浩ちゃんは僕とは違って頭が良い。町で一番難しい高校に今年受かったらしい。
浩ちゃんのおばちゃんが家に遊びに来て、その話題になる度にかあさんは羨ましがる。
そして必ず困った顔をして僕のほうを見て、「うちの美智雄は遊んでばかりで……」と言い始めるのだ。
その度に僕は『いつも朝早くから牛の世話をしてるのに!』と不満に思い、ふくれっ面をして居間から出ていく。
すると、かあさんの「あら、怒っちゃた?」という、とぼけたような声と、おばちゃんの甲高い笑い声が、いつも通りに僕の背中を追ってきた。
最初のコメントを投稿しよう!