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そしてもうひとつ説明しなければならないのが、我々の宗教のことだろう。
昼を讃える”昼の光教”。そして夜を讃える”夜の闇教”。
私は今でも、何故、我々はふたつに分かれ。そして争わなければならなかったのか、分からない。
しかし両者は互いにいがみ合ったし、互いを詰り合った。
「”夜”の連中はバカばかりだ。昼があるからこそ、生きていけるというのに。今使っているエネルギーは、何を糧としたものだ?」
「”昼”の者共こそ分かっていない。目の前の利益ばかりにしがみつき、真相が見えぬのか。夜という静寂が無ければ、眠ることさえ適わぬだろう」
終始、この調子だった。
私はとりあえず、夜の闇教に属してはいたが、本当は昼でも夜でもないものを望んでいた。
そしてその日、決して口にしてはいけないことを言ってしまった。
「なあ、昼と夜、どちらかでないとだめなのか?
シェルターの外には”昼と夜の間”があるはずだ。
もっと曖昧でいいんじゃないか。シェルターの外の世界……本来の空はきっと、昼とか、夜とか、簡単には割り切れないし、どちらが偉いとかないと思うんだ」
一瞬で、場が凍りついた。
その瞬間に初めて、しまった、と思ったが、もう遅い。昔から私は、空気の読めない性格なのだ。具体的に何をしてしまったのかは分かりかねたが、さすがに皆の表情から、何かをしてしまったことには気付いた。
そして堰を切ったように、怒号が飛び交った。
「本来の空?」「昼と夜の間!」「こいつは一体、何を言っているんだ?」
やがて皆の声が揃う。
「異端者」「異端者!」「異端者!!」
間もなく私は、宗教裁判にかけられ。
碌に弁明の機会も与えられず、有罪となった。
「被告人を”宇宙流刑”に処す」
裁判官が冷徹に放った判決を、どこか他人事のように聞いた。
宇宙流刑は、死罪の無い我々の社会の中で、最も重い刑のひとつだ。
罪人は最低限の生命維持装置が取り付けられたカプセルに詰められ、永遠と宇宙空間を漂い、その中で寿命を迎える。直接的ではないだけで、実質的な死罪、ともいえるかもしれない。
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