存在しない駅

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秋も深まる10月のある週末金曜日、この日は仕事が終わってから職場の同僚と飲みに行った。 プロジェクトが一段落して久しぶりに飲みに行ったけれど、久しぶりの飲み会は楽しくて3軒ほどはしごして僕は終電で帰ることになった。 対面式の座席の在来線に乗って、僕は座席に座ったとたんに飲み疲れてうとうとと眠ってしまった。 僕が気が付いて起きると、その車両に乗っている乗客は僕と対面に座っている女性の2人だけになっていた。 その女性はとても美しい若い女性で、僕はその女性のことが少し気になった。 電車はトンネルを抜けて駅に到着しその駅で女性が降車した時、僕は女性がスマートフォンを座席に置き忘れていることに気が付いた。 僕は慌ててそのスマートフォンを手に取って電車を降車し、ホームで辺りを見回したけれど、すでにその女性の姿は見えなかった。 そうこうしているうちに電車のドアが閉まって電車は発車してしまい、僕は家に帰る手段を失ってしまった。 僕はまずは駅を出ようとホームの階段を上がって渡り廊下を歩き、改札のあるホームの階段を下ってから無人の改札を出て女性を探したけれど、すでに女性の姿を見つけることはできなかった。 駅を出ると駅周辺は寂れた感じで人は誰もおらず、電柱の薄暗い古い街灯が辺りを照らしているだけだった。 そこはまるで昭和の古き良き時代に戻ったような雰囲気だった。 僕はどうしようかと考えながら駅に戻って駅の改札を出た待合室にある長椅子に座ってしばらくすると、拾った女性のスマートフォンの呼び出し音が鳴って僕はスマートフォンの応答ボタンをタップして電話に出た。 この時スマートフォンの画面には、知らない女性の名前と『自宅』という文字が表示された。 「もしもし!  そのスマホは私のスマホなんですけれど、失礼ですがどなた様ですか?」 女性の声に僕は少しほっとしながら、 「僕は瀬崎と申します。  電車の座席にスマホをお忘れになったと思いますが、僕が見つけて貴方に渡そうと思って電車を降りて、今駅の改札を出た待合室にいます。」 と今の状況を正直に伝えた。 すると女性から、 「ありがとうございます。  私は榛名といいます。  今私は自宅から電話をしているのですが、すぐに駅に向かいますので少しお待ちいただけますか?」 とお願いされたので僕は、 「はい、いいですよ!」 と言って了承した。
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