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私は待っていた黄昏の君が来てくれたことにぐっと胸が熱くなった。
「あのさ!実はさ!」
私は振り返り、ずっとずっお置き去りにしたままだった、本当の気持ちを打ち明ける。
「あのさ!実は私は女の人が好きなの!」
イケメン男子はほぼ同時にきょとんとした。
まるで、飛来したUFOを見た時のように自分の目と耳を疑っている感じ。
しかし、一度切ってしまった私の関は、激流のように溢れ出した。
「ずっと黙っててごめんね。
私、実は女の人が好きなの。
だから、毎日、昼も夜もバイトしてお金を貯めてるの。
お金ためていつか、男の子になるために。
いわゆる、性同一性障害ってやつ!
だから、二人とは付き合えないんだ」
そう言って、「誰かと付き合え」と押し付けられる度に傷ついてきた自分の黒い部分が同時に溢れ出す。
みんな嫌い。みんな大嫌い。
みんなは恋愛が誰しもにとって必要なことのように言う。
男は女が好きで、女は男が好き。
私は好きで一人なわけじゃない。ちゃんと選んで一人でいるのだ。
面倒くさがってるわけじゃない。
たくさん、たくさん、色んなことがあったのだ。本当にたくさん。
今すぐにでも、首を括りたくなるようなこともあった。
それでも、生き抜いて出した答えなのに、誰からも理解されない。しようともされない。
だから、曖昧にすごしているのに、
人はそれを『ただの戸惑い』だと思う。
けど、本当をさらして好奇の目にさらされるなんてもっと嫌だった。
少数なだけで、ヅケヅケと中に踏み込まれたくない。理解がある振りもごめんだった。
「だけどさ二人はそんなこと考えてくれたことが一度でもあった?
付き合えないのは単に迷ってるだけだと思ってたの?」
一度でも立ち止まって、あらゆる可能性を考えてくれたことはないのだろうか?
本当の私を見つけようとしてくれたことはあったか?
探してもくれないのに、見つめる彼ら好きな『夕子』は誰だ。
「私は、性的にあなた方が受け入れられないの。どうしようもないの。
けど、私は曖昧に笑ってでしか生きられない人間だから。
それをわかろうともしないのに!
私のこと好きだなんて言わないで!」
思った以上に大きな声がでた。
公園の近くを通った人が、この奇妙な3人組を振り返るほどに。
それは初めての反抗だった。
きっと親にもしたことのないほどの反抗。
社会への、私の運命への反抗だった。
身体中のエネルギーを使うと、体が高熱を出した時のように熱いが、体の芯が冷たい。
俯いていた私は、二人が私を愛してくれたことには変わらないから、どんな思いも受け止めようと、顔をあげる決意をした。
それ以外の何もない。
泣くのはずるいと思い、涙は必死に堪える。
それを応援するかのように、珍しく、黄昏の君が、私の元に駆け寄ってきて、足に体を擦りつける。
「ありがとう。慰めてくれるの?」
私は黄昏の君を抱き上げ、その柔らかな体に顔を埋める。
肌寒くなる夕暮れの中で、彼の体温だけが私の頼りだった。
昼は男を表し、夜は女を表す。
どちらでもない。ただの落ちていく、黄昏の私。
しかし、驚いたことに昼と夜は私をぎゅっと抱きしめたのだ。
私の体が温かくなる。
「夕子、ごめんな。
ちゃんと考えてやれなくて」
朝日さんは私の頭に頬ずりし、力強く抱きしめる。
「辛かったね。夕子ちゃん。
だけど、僕たちを嫌いになれないで。離れていかないで。
どんな君でも僕たちは大好きだよ」
目から涙が溢れた。
「ううん。違うよ。
言いたいことをぶちまけて、からっぽになったからわかる。
結局は、何もかも人のせいにして面倒臭いことから逃げていた、私のせいなんだよ。
本当にごめんね」
二人の腕がさらに強くなる。
「あぁ、俺たちは友達…いや、これからチームになろう」
朝日の言葉に星矢が笑った。
「それはいいね。
チームの方が、どんな辛いことも、問題も解決できそうな気がする」
昼と夜にぎゅっと挟まれた私は温かかった。
そして、何より満たされていた。
性別とか、気持ちとか、体とかたくさんの境がなくなり、曖昧になり一つになる感じ。
まるで、宇宙と繋がったように感じた。
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