1人が本棚に入れています
本棚に追加
夜の蝶
俺の女は夜の仕事をしている。そもそも出会ったのも夜の店だ。キャッチにつかまり、たまたま入った店にいた女だ。
メグミは派手な顔立ちで華やかな女だった。まさしく夜の蝶という言葉がぴったりだった。一目で惚れた俺はその店に通うようになった。
半年ほどが過ぎた頃、俺はメグミの仕事が上がるのを待って食事に誘った。そのあと彼女のマンションに転がり込み、そのまま一緒に住むようになった。
そうなって初めて知ったのだが、昼間のメグミはとても地味だった。化粧気がまったくない顔は幼く、服装もおとなしい。言われなければとても同じ人間だとは思えないくらいだ。
化粧のテクニックだろうか。よくもまあ上手く化けるものだと感心しつつ、俺はメグミに言ったことがあった。
「お前、どんな化粧の仕方してんだよ?それだけの腕があったら、動画撮ってネットにあげれば結構見る奴がいるんじゃないのか?」
しかし彼女はいたずらっぽく笑い、
「そんなの、人様に見せられるようなものじゃないわよ」
その人様にはどうやら俺も含まれているようだった。
メグミの住まいにはメイク室というものが存在した。彼女が化粧をしているあいだ、俺ですらそこに入れないのだ。仕事の時間が近づくと部屋にこもり、夜の蝶となって出勤する。
まあ化粧をする姿を見られるのが恥ずかしいのだろうと思っていたが、一つ不思議なこともあった。化粧にかかる時間が短いのだ。長くて30分。早いときには10分程度で出てくることもあった。それでもいつも完璧な顔だった。
どんな化粧の仕方なのか気になった俺は、隠しカメラを仕掛けることを思いついた。小型のビデオカムを友人から借りて、メグミがいない間にこっそりメイク室に置いた。
その日もメグミは完璧な化粧をし、仕事に向かった。
俺は玄関の鍵を掛けてからメイク室へと向かう。
衣装棚の隙間に、俺が仕掛けたままの状態のカメラはあった。どうやら気づかれてはいないようだ。
早速小さな液晶画面で再生してみる。
メグミが部屋に入ってきた。まっすぐドレッサーに向かい、椅子に座る。しばらく鏡を見つめたまま微動だにしない。
最初のコメントを投稿しよう!