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彼女は今日も、あの男と並んで歩いている。どう見ても仲が良さそうで、僕の胸に最近はびこっている黒いもやは、物凄い勢いで僕の胸の中一面に広がっていく。
彼女がふいに、僕の方を向いた。目が合うと相変わらず僕の目を釘付けにする可愛らしい顔で笑って、僕に向かって左手をあげた。
「じゃあな、また明日。」
「...また明日。」
彼女は、僕に向かって、さらりと左手を振った。僕も彼女に答えるように、そっと微笑んで手を振り返す。
彼女が背中を向けたところで、あの男が、僕のことをちらと振り返った。彼女に向けている優しげな表情の欠片もない程、敵意を宿した瞳。そのまま、勝ち誇ったように口角をあげられて、腸がカッと効果音がつきそうな程に煮えたぎった。
あの男はすぐに顔を戻すと、彼女に向かって、なんともいえない優しげな顔で笑った。僕は、仲睦まじく体を寄せ合って帰る二人の背中を見つめながら、心の中で唇を噛み締めるしかない。
ふいにあの男が、彼女の手をそっと取った。当たり前のように絡みそうな指に、奥歯がギリと音を立てた。
「お兄、お待たせ。」
胸の中が黒いもやに覆われてしまう前に、僕の待ち人が、ぴょんという効果音がつきそうな様子で現れた。
僕が待っていたのは、双子の妹。身内の贔屓目を抜きにしても文句なしに可愛い子で、彼女が現れるまで、世界で一番可愛いのは妹だと本気で思っていた。
「また、あの子のこと見てたんだね。」
並んで歩き出しながら、妹はすでに小さくなっている彼女の背中を見ながら、さも当然のようにそう言う。
少し驚いてしまった僕は、慌てて口を挟む。
「いや、そりゃ、さっき挨拶を交わして別れたばかりだから。見送ってただけだよ。」
少し、早口になってしまった。妹は案の定、訝しげな目で僕を見る。
「ふーん。まぁ、いいけどね。」
そう呟いて、妹はアスファルトの地面を靴の先で少し蹴った。
「お兄が引き摺ろうがどうしようが、くっついちゃったものは、もうどうしようもないもんね。」
わかりきった当たり前の事実を改めて突き付けられた僕の胸は、燻っている黒いもやが一気に広がって、どうしようもなく曇ってしまった。
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