線香花火

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そう叫んでいると階段のところで咲良の後ろ姿を先に見つけ小走りで駆け寄ろうとして、咲良の目線の先に目をやり僕は文字通り目を疑った。階段の下で明良が倒れていたのだ。明良の頭からは赤いというより黒に近い血が地面に流れていた。蝉の鳴き声、頭から滴る汗。鼻が異常に良い僕は草の匂いに交じる血の生臭さを今でも忘れない。そして、立ち尽くす咲良。口元をニコーとさせ何も見えていない真っ黒な瞳で明良を見下ろす目に恐怖を覚えた。その目を見て僕は咲良がやったのだと確信した。すぐに救急車を呼べば間に合ったかもしれない。だが僕はそれをしなかった。咲良が僕の目を見た瞬間僕は咲良の手を引き全速力で走った。何故そうしたのか、当時の僕が何を考えていたのかは分からない。咲良の選んだ道を僕は完全に肯定したかったのかもしれない。そして、明良の死は不慮の事故として片付けられた。
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