その2

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その2

「今度はハナが鬼だよ」 放課後の教室は西日が差し込んで、意外と明るい。 窓からは、校庭を横切ってみんなが帰っていくのが見える。 。 あたしは、窓枠に持たれて、ケイちゃんとマキちゃんが教室の壁に立っているのを確認すると、 「じゃあ、始めるよ」 と窓の外を向いて、 「ダルマサンガコロンダ」 と早口で言って、振り向く。 ケイちゃんは直立して、マキちゃんは足を踏み出した姿勢で、静止している。 二人とも3歩ぐらいは、近づいてきているみたい。 家に帰るのはなんだか名残惜しくて遊び始めて、ランドセルを背負ってたままだから、バランスを崩しそうだけど。 「うーん」 あたしは、少し待ってみたけど、二人とも粘り強い。 「ダルマサンガコロンダ」 今度は、もっと早口で、振り向く。 やばい、振り向いたとき、今度も二人ともキチンと静止していた。 ケイちゃんは、前と同じように直立で、ちょっと笑い顔。 マキちゃんは、違う足を前に出して、下を向いている。 次は、絶対背中にタッチされそう。 夕方5時のチャイムが鳴り始めた。 「ダルマサンガコロンダ」 あたしは、もっともっと早口で叫ぶように声を上げた。 タッチされた感覚はなかった。 振り向くと、教室はすっかり暗くなっている。 そして……、 ケイちゃんとマキちゃんの姿も見えない。 「ケイちゃん、マキちゃん、どこ?」 机の下に隠れているのかなぁとしゃがんでみたけれど、見つからない。 あたしを置いて先に帰っちゃったのかなぁ、それはひどい。 泣きそうになって、窓の外を見ると、なんだか変だ。 でも、普段と同じ下校の風景、夕焼けもいつものうようにきれいだ。 しばらく見ていると変な理由が分かった。 みんな止まっている。 駆け足で校門に向かう男子も、手をつないで笑い顔で歩いている女子も。 そして、ケイちゃんとマキちゃんも、その中にいるのが気が付いた。 二人ともあたしにタッチするような姿勢で静止している。 「ダルマサンガ」 わたしは小さな声でゆっくりと口に出してみた。 急にチャイムの音の続きが鳴り出し、街の騒音が聞こえてきた。 男子たちが大声で校門に向かって駆け出している。 あたしも、駆け足で教室を出ていく。 ケイちゃんとマキちゃんに追いつくように。 そして、もうこの言葉は二度と言わないようにしないと、と思う。 「ころんだ」と。
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