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その3
夜空が真っ暗になった。
みんな、気がつかないようだった。
夜の外出が減っているせいだろうか。
それとも、それか気がついていても、自分には関係ないと思っているのか。
とにかく、もう2週間ぐらい星が全然見えなくて夜空が真っ暗なのだった。
「なんとかしなくちゃ」
晴れた日の夕暮れを待って、ハンマーを片手に、天鵞絨の黒いワンピースを着て、運河を星が上ってくる海の方に向かって下って行った。
運河は夕日に照らされてた街並みを鏡のように映し出していた。
やがて、海に出る手前の大きな鉄骨製のアーチ橋のたもとに着く。
黒い太い鉄骨には無数のリベットが打ち込まれている。
そーっと、近づいて、思い切り鉄骨の上にハンマーを振り下ろす。
――グウォーン、グウォーン。
鈍い音が響くと、ザワザワと声が聞こえてきた。
「チェッ、せっかく休んでいたのによ」
「少しぐらい、空に昇らなくてもいいじゃないか」
リベットに隠れていた星たちが、ブツブツ文句を言いながら、姿を現すと、渋々夕闇に張り付いて、空を登り出した。
「やれやれ、手のかかる星たちだこと」
帰ろうとしたとき、クスッと押し殺した笑い声が聞こえてきた。
――そうそう、忘れるところだった。
私は帰るふりをして、空に向かってアーチを描いている鉄骨を思い切りハンマーで殴った。
――ガッガーン。
今までで一番大きな音が夕闇の中に響いた。
「クソー、もう少しで誤魔化せたのに……」
アーチの影に隠れていた月がゆっくりと姿を現した。
姿が現したけれど、まだグチグチと何か言っているので、
「また、前みたいに齧っちゃうよ」
と叫んだ。
「ハイハイ、わかりました……」
慌てて夕闇に張り付くと、水平線からゆっくりと月が姿を現した。
街並はすっかり暗くなり、運河はゆらゆらと月と星々を映し出していた。
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