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その1
久しぶりに公園に出かけた日の夕方。
僕は、遊び疲れて、もう歩けないという娘を抱っこして、坂を上っていた。
空は薄い空色から、紫かかった深い色に変わろうとしている。
「パパ、お月さま」
娘が声を上げる。
振り向いてみると、暗くなった街並の上に細い鎌のような月が見えた。
「細い月だね」
「そう、ハナが、かじっちゃった」
「えっ、食べたの」
「そう、おいしそうだったから」
「どんな味がしたのかなぁ」
「レモン味、シュワシュワたっだよ。それと……」
「うん、それから」
腕に掛かる重みが急に増した。
娘の顔をの覗き込むと、満足そうにもう眠っている。
「よいしょっと」
僕は、娘を抱きなおすと、坂の残りを上っていった。
空にはもう星が輝き出している。
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