1m/s 冬の青空キャンバス

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「明日さ……サッカーの試合があんだ」 小さく口を開く。 ソラは黙って次の言葉を待っているようだった。 「初めてとったレギュラー、しかもスタメンですごく楽しみにしてたんだ」 今まで補欠、ベンチで 小学校最後にしてやっと勝ちとったレギュラー 「俺の母さんさ……体弱くって……手術のために都会の病院に移ることになったんだ……それで俺も転校することになった」 しょうがないこと。 分かってる。 俺ももうそんなに幼くない。 「明日が……アイツ等と一緒にサッカー出来る最後の試合なのに、明日は雨」 無情にも天気予報のお姉さんは笑顔で雨の予報を告げる。 「母さんは、俺が物心ついた時から病院のベッドの上にいて、父さんはいつも仕事に出かけてた。だからサッカーボールだけが友達だった」 ひとりぼっちの部屋で用意されてるご飯を食べて、テレビを見ながらサッカーボールで遊ぶ毎日。 「母さん……かなり悪いみたいで……お医者さんに手術してももう長くないかもしれないって言われた」 猫が「にゃぁ」と情けなく鳴いた。 なぜかその鳴き声は悲しそうに聞こえた。 「だから……明日……もし晴れたら、母さんが……見に来るはずだったんだ」 泣きそうになって慌てて下を向く。 ぶんぶんっと首を振り、無理矢理顔を上げた。 「まっ、しょうがないよなっ、天気なんてどうも出来ないし。神様が決めることだもんな」 も一度地面を蹴ってブランコをこぎ出す。 ソラがブランコから降りて、誰も乗ってないブランコが虚しく揺れた。 何も考えず喋っていたけれど、よくよく考えてみると他人から急にこんなこと喋られたらどうしていいか分からなくなるに違いない。 俺はブランコをこぎながら出来るだけ明るい調子で言った。 「急にこんな話して悪かったな。気にすんなよ」 話して少し楽になった気がするから、もういいや。 俺も気にしないことにしよう。
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