(1)終わりを告げた日

1/1
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ

(1)終わりを告げた日

私の結婚生活は 些細なことで終わりを告げた。 あの日 私はワインを飲んで ちょっぴり ほろ酔いでいい気分だった。 3か月後には 二人で マークの故郷の メルボルンに行くことになっていた。 1年前に 彼の弟のクリスが脳溢血で 倒れて入院した。 その後 ケアハウスでリハビリし 今はどうにか一人で暮らせるようになっていた。 そんな弟が心配で 一緒に暮らしたいと マークが言い出した。 「一緒に来てくれる?」と 私に聞いたが 彼の中では 私も当然行くものと 決めているのが分かった。 私は 行きたくはなかった。 このころには マークと二人の生活でさえ 彼の要求に応じるだけで うんざりしていた。 少しでも 思い通りにならないと 必ずマークは 「もう おしまいだ。 もう お前なんかいらない。」 と 私を怒鳴りつけていた。 そのうえ、 左半身がほとんど動かなくなった弟と 一緒に暮らせば 私が大の男 二人の世話をすることになる。 「クリスの世話をする必要はないから。」と マークは言うけど そんなわけにはいかないだろう。 しかも マークは 私には 何でも自分の意見を押し付けてくるのに 兄や弟が 何か言うと 必ず その通りにするところがあった。 「行きたくない」と言っても 「自分のことしか考えていないのか?」とか 「家族のことが 心配じゃないのか?」とか 言って 私を責めるに決まっていた。 仕方なく 覚悟を決めて 私も メルボルンに行くことにしていた。 「一緒に メルボルンには行くけど 向こうで もう 別れる とか 言ったら ほんとに別れるからね」。 ワインのせいか つい 言葉が出てしまった。 おまけに もう ひとこと。 「あなたって 自分の家族には弱いよね」。 すると 彼の怒りは一気に沸点に達して 「お前を絶対許さない。 もう これで終わりだ。 その言葉は お前の結婚生活で 代償を払うべきだ。」 「はぁ~? 何言ってるんだろう。 どうせ また いつものおしまい宣言だ」と この時は軽く受け流しておいた。 しばらくして 寝室に入ろうとすると 鍵がかかっている。 マークが 中に閉じこもって ノックしても開けてくれない。 「開けてよ」。 とガンガン ノックしても 開けようとしない。 なんの権利があって 私を閉め出すのよ! お前だけの 部屋じゃないだろ! と だんだん 腹が立ってきた。 「今日中に することがあるから 開けて」 と言っても 完全に無視。 かたくななマークの態度に 私も意地になって 30分もガンガンしただろうか? ふと 寝室の鍵があったことを思い出して 取りに行った。 私が 鍵を使って 中に入ると びっくりした顔で マークが私を見た。 無言のまま 私は 自分の必要なものを取って 寝室を出て もう一つのベッドルームで寝ることにした。 どうせ 明日になったら 「やっぱり エリーがいないとだめだ。 別れられない」 とか 言うに決まってる。 今日は もう何も言わずに一人にしておこう。 翌日 ネットで支払いをしようと 口座にアクセスしたら パスワードが違うと出た。 おかしいと思ってマークに聞いたら パスワードを変更したと言う。 二人の共同口座なのに 勝手に変更するか? 「どうやら 今回は 本気かもしれない」。 そう 思ったら なんだか ホッとした。 これで 本当に 別れられるかもしれない。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!