私まで泣きたくなるじゃない

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 高校受験間近、夕暮れの自転車置き場でのことだった。 「美桜(みお)ちゃん、わたし高原くんのこと好きなの」  自転車を出そうとしていた私に、一ノ瀬葵は突然言い放つ。 「あ、そ、そうなんだ」  動揺を隠せない私。高原浩輔はいわゆる元彼。二ヶ月前に別れたけど、まだ完全には忘れられないでいる。  俯いたまま考える。この子も浩輔と私の事は知っているはず。なんで私に言うんだろう。  意を決して葵の方を見ると、彼女の決意に満ちた表情を夕陽が照らしていた。ああ、いい顔するようになったな、この子。  葵は三年生の六月に転校してきた。転校三日目、まだクラスに馴染めない彼女は、一人で昼食を食べていた。みんな仲良くがモットーの委員長気質の私は、弁当片手にそちらに近づき、できるだけ穏やかな声で彼女に告げる。 「一ノ瀬さん、一緒に食べない?」 「……うん、ありがとう」  彼女は嬉しそうに私を見上げる。それ以降、素直な葵の交友関係は広がっていった。  この子の真剣な思いを私の半端な気持ちで邪魔するわけにはいかない。だからかける言葉は決まってる。 「なんで私なんかに報告してるのよ。あんたのしたいようにしなさいよ」  精一杯、強がってみせる。優しく聞こえてますように。 「ほんと今までありがとう、美桜ちゃん」  泣かないでよ。私まで泣きたくなるじゃない。
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