私の滑らない話―夏、京都にて―

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 それは五年ほど前の七月だった。  当時、大学生だった私はテスト代わりのレポート提出に明け暮れていた。  その日は神仏に関する写真を添えて感想を書くだけの比較的簡単なレポートを書くため、授業を終えて大学の近くにある寺社仏閣へ足を運んでいた。  午後四時前。  季節はすっかり夏となった今、寺社仏閣は参拝時間を延長しているところが多い。滑り込みで行けばもう一社ぐらい参拝できるだろう。私は六波羅蜜寺の境内から目と鼻の先にある六道珍皇寺へと向かった。  地図アプリ曰く、徒歩約三分の道のり。目の前の道を真っすぐ進み、どんつきにある幽霊子育て飴の「みなとや」を右に曲がって坂を上る。京都では見慣れない、少し曲がった坂道を抜けた先に大きな山門が見える――はずだった。  奥まった山門へと繋がるあの参道がない。おそらくこの辺りだったはずだが。焦る気持ちを胸に私は更に坂を上る。  ……まだ先だっただろうか?  直線で見晴らしの良い坂の先には車通りの激しい東大路通が見えた。此処までくると行き過ぎている。東大路通から「みなとや」までを数回往復してみるが、山門どころか境内に繋がる通路すら見当たらない。往復している間も、時間は刻一刻と過ぎて行く。  まもなく五時。夏といえども流石に閉門してしまう。  慌てて坂を下ろうとした私は、たまたま目についた路地の奥を見て足を止めた。あのハッピー六原に人の気配が全く無いのだ。
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