私の滑らない話―夏、京都にて―

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 地元のスーパー、ハッピー六原。  食品だけでなく服や鞄、ありとあらゆる日用品が揃うこのスーパーは常に客で賑わっている。地元の人間ではない私でも何度もお世話になっており、百円で買った蓮柄の手ぬぐいは今年の夏も世話になったばかりだ。  ハッピー六原の看板は、道幅いっぱいに「ハッピー六原」と文字が掲げられており、アーケードのような形になっている。細い路地ではあるが、どんつきが学校のグラウンドと言うこともあって、見晴らしは良い。……そのハッピー六原のある路地が、見たことも無いほど暗いのだ。  店先に並ぶ自転車は一台も無く、まだ日は高いはずなのに黒く塗りつぶされたように奥が見えない。初めて見る退廃とした光景に背筋が寒くなる。  タイミングよく携帯のバイブが鳴り、我に返った。画面を見ると午後五時を過ぎている。仕方がないので私は六道珍皇寺のレポートを諦めて帰路につくことにした。  後から知ったのだが、六道珍皇寺はお盆の時期を除いて午後四時で閉門していたらしい。どちらにせよどれだけ足掻いても私は間に合っていなかったようだ。  阪急電車に乗るため、四条通に向かうべく私は松原通をもくもくと一人歩いていた。その間、人っ子一人ともすれ違わない。この辺りの人間ではないので、平日の夕方は人通りも少ないのだろう。当時の私は思っていたのだが、よくよく考えると松原通は個人商店も多い。店先で人に会うことも、夕飯の買い出しついでの井戸端会議も、不自然なぐらい見かけなかった。横目で見かけた小さな公園にも、勿論誰も居ない。  不気味ではあるが、地元も大して人通りがある場所ではないので、これといって気にはしていなかった。気付けば目の前には建仁寺があり、境内を抜けて四条通へ。  なんとも言えないもやもやを胸に抱きつつ、私は阪急電車に乗り込んだ。
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