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奇跡のバックホームはまさにそれだった。
「私も、やっとわかりました」
この愛してきた男性が、いつの間にか本部課長という階段を駆け上がっていけたのも、そういうことではなかったのか。そんな彼に憧れて、そんな何気ない男性を妻として愛し支えてきた彼女にも憧れて――。
――私もそうなりたい。そうなれる。
球を握りしめ、千夏は先ほど、この球が自分の目の前で力尽きて落ちた場所へと向かう。バウンドした痕跡があるそこに立ち、千夏は遠くにいる彼に叫んだ。
「河野くーーん。もう一度!」
叫び、千夏が思いっきり腕を振り上げて球を投げる。
でも。今度は力無い女の送球。その球は全然遠くに飛ばずに彼のかなり手前で落ちて転がる。それを河野君がこちらに走ってきて拾い上げた。
「もう一度、やってみよー」
バウンドした位置に千夏は座り込んだ。
つまり距離を縮めたのだ。それを彼は気がついているようだった。
『そこでいいんですかー』
河野君の問いに、千夏はOKサインを掲げミットを構える。
彼がどう思ったか判らない。でも球を持って元の位置に帰っていく。
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