1916人が本棚に入れています
本棚に追加
/281ページ
港が見える城下町。ほどほど事足りる日常をなにごともなく過ごしていける地方都市。東京本社を筆頭に全国を地方エリア分けをした地域顧客の声が、僕のところに集まってくる日々。
「美佳子。働いてみる気とかある?」
妻、美佳子に唐突に問いかける僕。夕食の膳を整えていた彼女がきょとんと僕を見上げていた。
「なにいってるの。梨佳がだいぶ手から離れたから仕事に出ようと思っても、もう私の年齢で雇うところなかなかないって言っているのに」
短期のパートには出て行くが、確かになかなか長く続けられる仕事に、美佳子は巡り会えずにいる。
いつまでも末端のコンサル室から異動命令も出ずに係長のままの僕。出世コースに乗らなかった僕の月給だけが支える家計は、正直なところそんなに余裕はない。娘の梨佳は小学生になり、今までの習い事に合わせて学習塾へ通わせることを妻と話し合うようになっていた。
最初のコメントを投稿しよう!