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それでも僕は満足していた。家族がいたから。これまでなんとなくやってこられたから。これから、なにか苦難があるかもしれない。娘の進学のことを考えれば、僕に娘の行く道を万全にサポートしてやることが出来るのか、力有る父親になれるのだろうかと不安になったりする。それでもこの日をこの場所で何も変えずに生きていくことだけを保持して――。
「てっちゃんてある意味、器用貧乏って言うのかな」
田窪さんが休憩時間にカップコーヒー片手に呟いた。
「は?」
「コンサル室の器用貧乏。だってもううちのコンサルから佐川君がいなくなるなんてことになったら、この支局センター、発狂しちゃうんじゃないの?」
「まさか。課長もいるし」
「佐川君に任せっきりだし」
「主任も育っているし!」
さらに五年経ち、やっぱり僕の周りだけが変化している。なんとあの田窪さんが、主任になっていた。今や僕を補佐してくれるパートナーと言っても良い。
「ヤダよ。佐川君が守ってくれるから主任が出来ていると言っても過言じゃないしね」
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