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研修が終わり、順調なオペレーター業務へと復帰していた。周りから聞こえてくる妻の評判も上々で夫として鼻が高かった。なによりも、美佳子がとても充実した日を送って生き生きしていたのに。
「もうだめなの。ほんとうにごめんね。駄目な妻で……」
そんな。ここで辞めてしまったらせっかくの就職だったのに無駄にしてしまうことになる。だから何があったか判らず納得できない僕も『いいよ』とは言えなかった。
「なにがあったんだ。それを教えてくれないと」
「ごめん。私が駄目なの。本当に駄目な女なの……!」
『それでは僕だって納得できないよ』、『本当に駄目なの。許して』。
その繰り返しだった。埒が明かず僕はこれが最後と決めて聞いてみる。
「美佳子。そんなに頑張れなくなったのかよ」
「頑張れない」
もう一度聞く。
「甘えた主婦だと言われても良いのか」
きっと美佳子が一番言われたくないことだと思う。それを後ろ指さされてこれから言われる。その屈辱を、レッテルを自ら貼るぐらいなら、もしかしたら……と僕は最後の期待を込める。
「美佳子。本当にいいんだな」
「いい。それでもいい」
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