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長年、僕を育ててくれた課長にミーティング室にわざわざ呼ばれ、向き合ってすぐに告げられたことはそれだった。
女性達がインコール業務を懸命にこなしている勤務時間。午前の集中している時間帯。誰もが通路も通らず、ミーティング室にも近づかない静かな時だった。
とても天気が良い日で、このミーティング室から見える故郷の山々が少しだけ山頂に雪をかぶっていて綺麗に際だっている。そんな穏やかな小春日和の陽射しが僕と課長を窓辺で包み込んでいる。シンとした静まりかえった空気の中、僕はただ恩師でもある課長を見ることしかできなかった。
「いえ、僕など……」
「法人担当のコンサル室の課長だぞ。コンサルティングを勤めてきた男にはエースの部署じゃないか」
「でも、僕は」
「なかなかないチャンスだと思う。これを逃すと俺みたいに支局の万年課長で終わるぞ」
ふっと課長が苦く笑う。
僕としては考えられないことだった。
「僕は、この支局以外出たことがない世間知らずな男です」
「そうかな。本部ではここは佐川しか任せられないと思っての長年の配属だったようだけどな」
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