シーズン5【 スイートテン 】前編*結婚十年、パパにチャンス到来!*

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 田窪さんが言っていたとおりだと思った。適任ということでなかなか異動が出来なかったのだと、僕自身もやっと認識した。 「しかし支局ながら、投げ出しもせず、あれだけの女性達をまとめあげ、トラブルも乗り越え、パートだった女性を主任にまで育てただろ。そういう地道で、大きなトラブルも損害も出さずにやってきたことは評価されていたんだよ。俺も鼻が高いもんだ」  でも。そんな僕を育て上げたのもこの男性。それなら課長がもっと条件が良い部署へと出世すればいいじゃないかと思うのだが。そんな僕の無言の視線を年配者である課長に読みとられてしまう。 「俺は駄目だよ。本部の法人なんて……。そりゃ本部に転属になるのは栄転ではあるけどな。器じゃないと自分で判っているし、」  そして課長は致し方ないように僕に笑った。『もう歳だから』と。そこは清々しく。ありのままの自分を飲み込むことが出来た男の達観した笑みのように思えた。 「徹平はまだ若いだろ。それに梨佳ちゃんにもこれから金がかかるだろうし。それに美佳子ちゃんもなあ……」  課長が口ごもる。まるで『働けない妻』だと言いたげに。
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