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それからあからさまに、美佳子が元気をなくしたのだ。それどころかそつなく勤めてきた彼女が、一週間も続けて休んだ。こんなことになれば誰だって『やっぱり営業の彼との三角関係。本当だったんだね』と思い込んでしまう。
もし噂が本当だったならば……。営業の若い彼が自ら『同世代の女性と付き合っています』とわざわざ公表したのも、『三十を超えたお局様との噂はこれで消えた』ということだったのかもしれない。オフィスの隅っこにただいるだけの僕にだってそう考えついたぐらいだ。
そんな彼女が出勤すると、いつもの彼女に戻っていた。それでも周囲はヒソヒソしながら、腫れ物を触るようにして、彼女には妙な笑みだけひたすら見せている。それがまた、僕のいるフロアにぎくしゃくした空気を生んでいた。
年下の彼と付き合っていたのか、若い女に取られてしまったのか、破局したのか。すべては噂で、本当にそうだったのか、彼女からはなにひとつ認めていない。それでもこうなるとオフィスでは『年下の彼と付き合って、若い女に寝取られ、ショックで会社を一週間も休んだ女』と見なされるのだ。
気のせいか。暫く、彼女が孤立しているように僕には見えた。
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