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この支局センターにいた十年前、沖田は『美佳子さんとは何もなかった』と言い張っていたのに、十年経って当時付きあっていた恋人のために切り捨てたはずの『年上女』の美佳子と『実は深い仲だった』と言いだすだなんて――。
僕は思った。あの時、僕が営業部長に彼の不手際がばれてしまうような判断をしたこと、そして若気の至りだったかもしれないが僕を殴ったことで異動になってしまったこと。これだけでも再接触すれば彼にとっては怒りを再燃させるには十分な理由になる。
でもまさかな。田舎の支局営業に飛ばされたはずだったのに、エリア本部の営業に返り咲いていただなんて。それだけで、あの強気で自信に溢れている彼の貪欲なバイタリティを感じさせられた。必死にやってきただろうし、諦めずにやってきた証拠だ。だが、野心家であるのは確かなようだ。
そんな苦労をして念願の本部に配属されたら、そこに因縁の男の妻となったさらに因縁が絡んだ女が復帰していた。過去に『やられた』から、今度は『やりかえした』。今度は自分が先にいたテリトリーから、美佳子を追い出してやったのだろう。
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