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帰路につく運転中。いつも混雑している神社の三叉路、信号待ち。僕はハンドルを握りながら悶々と考える。
課長を引き受けたら、間違いなくあの沖田と仕事をすることになる。
争いやいざこざの『リスク』を覚悟せねばならないだろう。
さあ、どうする――。
自宅に帰ると、変わらず夕食を作る匂いがした。覇気はないが淡々と主婦業をこなして美佳子は過ごしている。
「あ、お帰り。徹平君」
「うん……」
エプロン姿の美佳子が玄関にやってくる。今までのような溌剌とした笑顔ではないけれど、少しずつ戻ってきている。
そんな美佳子に『あの男がいる本部に行くことになったよ』と告げたならば、どう思うのだろうか。靴を脱ぎながら、僕は小さく溜め息をついた。
「……なにかあったの。徹平君」
「え、なにもないけど」
とてつもなく心配そうな顔の美佳子がそこに立っている。けっこう鋭くて僕は慌てる。細かい仕草を妻はしっかり見届けていたようだ。
「また一人で我慢していない? だいぶ前になるけど『嫌なことがあった』とか急に言いだして、私、あの時びっくりしたんだから」
「嫌なことなんてないよ。仕事は順調」
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