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「そうだよ。美佳子。美佳子は『甘えた主婦だからすぐに辞めた』と言われている。でも僕に直接言う人なんていないよ。遠くで言っているのをたまに耳に挟んだりね」
正直に告げた。妻だから、遠回しに慰めるのはやめた。彼女が遠回しに僕を気遣って思い悩んでいるのが余計に重くしてしまうなら、気にしていること言った方が良い。
「やっぱり……。そうよね」
だが。妻の顔はそこで急にほっとしたように緩んだのだ。勿論、安心した笑顔ではない。本当のことが分かって、分からなかった時より肩の荷が降りたといったような解放された顔だった。
「でも僕の迷惑になるようなことはなにも起きなかったよ」
「それなら、いいのだけれど」
ホッとしつつも、やはり『続かなかった主婦』と言われている事実を重く受け止めている神妙な顔になっている。
「それどころか……」
どうしよう。まだ迷っている。だけど、いつかは言わねばならない。
「本部の法人コンサル室の課長候補になっているらしいよ、僕」
だから、僕にマイナスになっていることなどないよ――という意味も込めて、妻に告げた。
「それ、本当?」
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