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他の女性達は帰ってしまったのに、彼女だけが残業をしていた。
『大丈夫かよ。まだ出来ないの。僕も手伝おうか』。『ううん、いいの。私、集中力なくて、ただ要領が悪くて遅れただけだから』。ちゃんとやって帰る。そういうからそっとして、黙々とアンケート葉書のデータ入力をする彼女の仕事が終わるのを見守っていた。どちらにせよ。今日は僕がこの部署事務室の鍵を閉めなくてはならないから、待つことになってしまう。
彼女の仕事が終わり、全てのマシンの電源を落とし、事務室の灯りも落とす。最後に鍵。その時、向かいのロッカールームから彼女が上着と荷物を持って出てきて、一人で暗い中帰ろうとしていた。その時、僕は『送っていくよ』と声をかけたのだった。
「さすがに一週間はヤバイよ。体調不良という理由で欠勤してもその理由が通用しない状況にあったし、『若い子に寝取られてダウン』なんて恋沙汰で休むのは、女の子達も迷惑だと思っていただろうし、特にパートのおばちゃん達がいちばん黙っていないと思うしね」
「……ったんだもの」
小さな声で呟かれ、僕には聞こえなかった。『え、』と聞き直す。
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