1914人が本棚に入れています
本棚に追加
/281ページ
「ごめんね、徹平君」
俯く妻に、僕は賽銭を握らせる。
「美佳子も」
彼女が小銭を握る。僕の手から渡した賽銭を、美佳子は暫く見つめていた。
「ママ、パパ。まだ?」
先へ先へとはしゃいでばかりの娘も、とうに参拝を終え階段を下り待ちかまえている。
娘が待っているのを見て、美佳子が笑顔になり、ついにその賽銭を投げた。
二礼二拍一礼。僕の横で妻がきちんと参拝する。
「終わったわ」
厄を落とす。その意味を美佳子もわかってくれたのか。やっと僕が好きな笑顔を見せてくれた。
「もう、これで終わりな。僕たちは二度と沖田に関わらない」
今日、僕が妻をここに連れ出した意味。小雪がちらつく夜空の下、春を告げる祭で終わりにする。引いたくじの貧乏はもう受けたんだから。美佳子も疫病神なんかじゃない。貧乏くじをひいただけだ。
僕のその言葉に美佳子がまた涙をこぼした。
「パパ、いこうよ。お腹空いたよ!」
「うん、いこう」
時間は夜の八時をとうに過ぎていた。それでも参道の参拝客の賑わいは続き、人混みも終わらない。
「いこう。今まで通りの僕たちで充分だよ」
最初のコメントを投稿しよう!