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あれから美佳子が無事に男の子を出産した。出産して動けるようになると美佳子は明け方のバイトに出て行くようになった。その間、僕が息子の面倒を見る。出勤前、パパが授乳。息子のちいさく丸い背をぽんぽん叩いてげっぷを出してあげると、たまにケホッと甘い匂いのミルクを白いシャツに吐かれてそのまま……。
朝は慌ただしく、僕と美佳子で時間ギリギリのバトンタッチ。美佳子はそのまま昼間は小さな赤ん坊の息子とぐっすり眠って休めるとのことで、今のバイトを続けていた。
そして僕は今。
「だめだめ。綺麗なハンカチが汚れるじゃないか」
慌てて僕は自分のハンカチを出して拭いた。
そこで眼鏡姿の『落合主任』がにっこり笑っている。
「本当。いつまで経っても佐川課長は変わりませんね」
「僕はいつも通りだよ」
「でましたね。『僕はいつも通り』ってセリフ!」
キリッと黒いパンツスーツで決めている『冷たいシングルお局様』と言われている落合さんがケラケラと笑い出したので、コンサル室のメンバーが驚いた顔で僕たちを見た。
「課長。北条工業の三浦専務から連絡が欲しいとのことでしたが」
「うん。わかった」
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