シーズン1 【 独身 】*僕はいわゆる『いい人』、つねに対象外*

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 なんの対処も思いつかずただ考え込んでいる僕の目の前で、また美佳子がくすんくすんと泣き始めてしまう。今度はハンカチを握りしめ静かにずっと泣いていた。ひたすら涙を流し、心底哀しいという彼女の想いが僕にも伝わってきた。  毎日がもどかしくて仕方がないことだろう。あることないこと囁かれ、そしてなかなか去らない嵐に、厳しい視線に晒され、もう一週間も休むことなどできるはずもなく――。 「よほど、ショックだったんだな」  きちんと仕事を続けてきた彼女が休んだんだから――。寝取ったなんて噂を流されて……。 「ショックだったのは……」  涙声で彼女がやっと口を開いた。 「ショックだったのは。彼女がうちのコンサルのロッカーにまで押しかけてきて、『いい歳をした大人が、なに浮かれて若い男にひっついていったのよ。遊びに決まっているじゃない。みっともない。不倫の噂があるだけあって、人の男寝取るの得意そうね』て言われたから……」  うっわ。若さってある意味凶器だな――僕の背筋が凍る。僕もこれから若い女の子を『宥める時』は言葉や接し方に気を付けようとすら思った。
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