イニング1 【 先攻◇年下男は熱闘体育会系 】

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 この本部のコンサルに来て最初の自己紹介、『私は鬼ババですから、佐川課長が優しくしてくれても厳しく行きます』と生意気に言い放った。  案の定、彼等に距離を取られた。でも千夏はそれで良いと思っていた。私が鞭で佐川課長が飴になってくれたら。ぐずぐずしていられない。課長と成果をあげるにも、厳しいところは厳しくしなくてはいけないのだから。  正直、佐川課長はのんびり構えているところがあって……いや、よく言えば『悠然』、これが彼の一番良いところだからこのままであってほしい。だからこそ、千夏が彼が出来そうにないところを買って出たつもりだった。  なのに……。千夏の角張ったところは、丸く見えるよう課長がフォローしてくれる。だから青年達も『課長が連れてきた主任』として、厳しくしても信じて耳を傾け動いてくれる。補われているのは自分のほうだった。 『女性らしいところもフォローしてあげないとね』  決して荒ぶることない穏和な声が耳の奥でこだまする。 「もう、そういうところ。なんだか、余計なのよ……」  知らなければ『女』なんか意識しなくて済んだのに……。  湿った六月の風が、俯く千夏のうなじを撫でていく。
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