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――気を取り直して。あんまり行儀良くないが、そこの中程の階段に腰をかけ、食べかけのサンドウィッチを取り出す。
中途半端なランチ、でも若い男の子達の気遣い、なのにすぐにその空気を壊してしまう自我の強さ。そして……なんだか懸命にアプローチしてくる彼。素直になれない自分。そして課長の……。アップダウンが激しすぎる。
「あー、またこんなところで休憩しているな」
その声にドキッとして振り返ると、階段の上、入り口がある踊り場に佐川課長が立っていた。
眠気覚ましなのか、片手には栄養ドリンク。それの蓋を捻り開け、市内の風景を一望しながら飲み干す姿がそこにあった。
奥さんが選んだのか洒落たネクタイ。踊り場に吹く風にはためかせ一息つく姿を、千夏は暫し息を潜め見上げていた。
でもずっと見ていてもどうしようもない。課長と仕事以外で二人きり、手持ち無沙汰になりたくないから千夏から口を開く。
「課長のせいですよ」
え、僕のせい? とぼけた顔をして。この人もほんと邪気がないって言うか。でもこちらは大人の男、とぼけた顔をしてすぐに千夏が言いたいことをわかって笑い出す。
「もしかして河野君のこと?」
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