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「そうですよ。何故『知らない』って言ってくれないんですか。課長と一緒じゃないと彼はすぐお堀……」
「城山の堀端でひとりランチをしているなんて、僕は言っていないし。『どこにいるか知らない』と言ったら彼が『わかりました!』って元気よく飛び出していったんだけど」
つまり。佐川課長はなんら関係なく、原因でもなく、単に千夏の行動を彼に把握されてしまっているということを言いたいようだった。
「彼、いいヤツだよ」
この人が言うから間違いないのだろう。いや、信頼している男性が言ってくれなくても、あの彼を見ていれば判る。
そしてこの課長が、『いいヤツ』と言ってくれる裏に『間違いない男だから、素直になってみたら』と暗に勧めてくれているのもわかる。
「もしかして、まだずっと前のこと気にしているのかよ」
この男性との今までの付き合いの中で、千夏はずっと忘れてはならないことがある。彼の妻を傷つけたこと、この尊敬している男性を傷つけたこと。自分勝手だったこと。そして……。千夏はそこは心の呟きでも密かに黙る。
「いいえ。いまさら」
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