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「僕も美佳子も今はもうなんとも思っていない。その気持ち解ってくれていると信じているんだけど。まだ気にしているとしたら、僕たちも困るよ」
そんな昔の、互いに若かった時の、誰にでもある未熟故の諍い。別れてそれっきりがほとんどの中、千夏とこの男性とその奥さんは運良く修復でき、良き関係を結べた。
千夏だってわかっている。皆が許してくれたことも。自分も変われたことも。それが糧になって今の自分を成長させたことも。
でも。解らないだろうな。一言では表せないこの重み。ある意味、トラウマに近いこの感覚。言葉や頭の中で理解できても、どうしても自分自身で外せないものがあって、外したいのに外せないこのもどかしさとか……。
「彼、商業高の野球部だったんだってさ」
「聞きました」
「もうさあ。僕みたいな運動できない男からみると、甲子園に行ったとか聞かされちゃうとヒーローに出会ったように感激しちゃうんだよな」
甲子園に行った!? 彼、そんなこと一言も言わなかったと千夏は驚く。すると、佐川課長がハッとした顔になり慌てて言い直す。
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