1911人が本棚に入れています
本棚に追加
/281ページ
そっちはこれからプライベートで存分に佐川課長と親睦を深められるんだから、他部署の男はこのコンサル室に入ってくるな。とさえ、思ってしまう。
だが千夏の気持ちを乱したのは、なにもこの元気な年下男だけじゃない。河野君が現れた途端、なにやら課長が意味深な笑みを浮かべている。
「お疲れ、河野君。あ、そうだ。僕、営業にこの書類を持って行かなくちゃけいないんだ。ちょっと待っていて」
なんてわかりやすいことをっ。あんまりにもべたな行動を取る佐川課長を千夏は睨んでしまいそうだった。
だけれど、それすらも『ベタで結構』とばかりの悪戯っぽい笑みを浮かべ、佐川課長が素早くコンサル室を出て行ってしまった。
――ついに、千夏は河野君と二人きりにされる。
「やだな。佐川課長ってなんかわかりやすいっすね」
千夏だけじゃない。若い彼も意外と困った顔をしている。いつもいつも堀端にいる千夏を追いかけてくるから、二人きりになるのは初めてじゃない。でも……。こんな静かな部屋に、しかも夜空が見える部屋に二人きりは、昼間の騒音の中で向き合うより奇妙な気持ちにさせられる。だから彼も途方に暮れているではないか。
最初のコメントを投稿しよう!