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だからって彼と何を話そうとも思わない。千夏はひたすら机を片づけ、帰り支度に没頭する。明日すぐに仕事にかかれるように、散らかしていたファイルやプリントを整理しながら……。
「仕事している主任の眼鏡の横顔、カッコイイっすね」
ちょっと驚いた。どこか垢抜けないままの元球児を思わせる彼から、そんな女を褒める言葉がさらっと出てきたことに。しかも彼の目を見ていると、いつもの素直な目。裏表ないお世辞じゃないって……。だから。
「あ、ありがとう」
胡麻すっても……。と言ういつもの言葉が何故かでてこなかった。それに彼もとっても満足そうに微笑んでいる。
そんな純粋そうな彼だからこそ。千夏は裏表ない素直な青年に言ってもらえて嬉しい反面、心苦しくなるのだ。
「でも。私、酷い女なのよ。性格悪いしね。男の子達を平気で叱りとばす鬼ババだしね」
言っておかねば。今の自分の姿を見ているだけではわかり得ないことを。この素直で屈託ない彼を傷つけたくないから――。
「俺、落合主任が格好つけずに本気でガミガミ叱りとばしている姿に惚れたんですけど」
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