イニング1 【 先攻◇年下男は熱闘体育会系 】

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 もし彼と真剣に向き合おうとしても、今の千夏は佐川課長の側で彼と一緒に仕事をして、なによりも彼の役に立ちたい。それがいま女として一番やりたいこと。  だから彼とは向き合えない。不倫を毛嫌いしてきた自分の正義感を絶対的自信にして、単なる噂でしかないのにそれを逆手に取って彼の妻を傷つけたこともあるのに……。  まさかその傷つけた女の夫に惚れてしまうだなんて本当に皮肉で滑稽、そして酷く罪深いこと。――だから、黙って押し殺して。自分に出来ることでこの気持ちを昇華していくしかない。そんな恋仕方しか出来なくても苦しくても、それをしていきたい。それにこんな素直な彼を巻き込みたくない。自分の寂しさを埋めるために、その時だけの相手として都合良く扱いたくない。彼がいい人だってわかっているからこそ。  そんな千夏だけの密かな思い。それをひた隠しにして、彼にはそられしい理由で諦めてもらおう――と、思ったのに。 「……主任。本当に課長のことがお好きなんですね」  嘘。千夏は熊青年を見上げる。いつも笑っている彼のつぶらな目が、真剣にどこか厳しく千夏を見据えている。 「な、なにいっているのよ」
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