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彼の車が国道を走る。市内を抜けて東部地方へと向かっていた。
「しまなみ海道方面へ行ってみようと思っています。大橋を渡って島にも行こうと思っているんですが」
「うん、いいよ」
どこでも――。と、心の中で付け加えている。
「途中の海岸沿いの店で食事をしましょう。和食ですけどいいですか」
「いいわよ」
彼にお任せ。特に希望はない。
「嫌なことは嫌と言ってくださいね」
「はい」
何でも良かった。とにかく、自分のこと……どうやって話そうかと考えあぐねている。そればかり。
言ってしまおう。全部、全部。いつまでも『素敵な女性』なんて持ち上げられても……嬉しいけれど、自分が嫌になってくるし。彼と気まずい関係になりたくない。彼は本部の人間だし課長とも仲が良いだけに、互いの職場での関係が負担にならないよう断らないと。それってどうすればいいのだろう。
「落合さん? 大丈夫ですか」
「え、ええ」
「それならいいんですけど」
ホッとした笑顔を見せる彼。彼も彼なりに緊張しているようだった。
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