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彼女が泣いた。突然、僕の隣で泣いた。
僕は彼女がずっと好きだったから、どうにかしてあげたかった。
「えっとー。食事にでも行く?」
車を運転する僕が言いだした言葉もかなり唐突。でも助手席に乗っている彼女『美佳子』が、涙を拭いながら無言で頷いた。
いつもの帰り道、信号待ち。まっすぐ行くはずの道を、僕は青信号でハンドルを右に切る。地元の細い旧道に入る。そこをまっすぐ行けば、たまに行くパスタ屋があるから。
彼女が泣いたからって、僕が泣かしたわけではない。
ちょっと前から、恋仲の男と別れたと僕は知っていた。といっても『噂』だけれど。
残業後、彼女が一人しょんぼりと帰ろうとしている背中を見て『送っていくよ』と声をかけただけ……。
―◆・◆・◆・◆・◆―
この店で僕のお薦めは、ボンゴレ・ビアンコ。
と言っているのに、彼女は『ボロニア風ミートソース』と頼んでいる。まあ、いいけど。
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