イニング2 【 後攻◇お局主任はおひとり様 】

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 一年生の時は身体も大きいこと、ある程度中学でも知られた選手だったとのことで、それだけでベンチ入りができ、たまたま甲子園に行ったと話してくれた。 「でも、それっきりでしたね。高校二年ぐらいから伸びなくなって、どんどん名もなかった同級生や後から来た後輩に追い抜かれて、二軍落ち。それっきりです」  致し方ないとばかりに緩く微笑む彼だが、そこでかなりの苦汁を舐める体験をしてきたことが窺えた。三年生になって野球を辞めることを決意。それからもう一つの夢だった理系への進学を目指すが、スタートが遅かったので一浪、いや二浪したと聞いて、思わぬ経歴に千夏はびっくり。 「でも。俺、なりたいものになれましたから」  そう爽やかに言い切る彼を見れば、二浪なんてものは彼がやりたいことを掴むために黙って耐えて頑張った期間であるだけだと千夏も思うことが出来た。 「努力家なんだね。河野君って」 「いえ。野球で負けたから、これ以上負けたくなかっただけです」  穏和な中にも、芯が強いところがあるよう。これはやはり、野球選手として培ってきた闘争心なのかと思わされた。
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