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「酔って忘れる、じゃなくて。一杯でも飲んですこしでも気分をほぐして、ぐっすり眠って『明日も業務を頑張ってください』――」
唖然とした彼女の顔。その一杯が僕にとって『特別』であったのか、またはいつも彼女達を社外で宥めるためにご馳走している一杯のコーヒーと同じ感覚なのか。僕にもわからなかった。そしてきっと彼女も、『いつもの一杯』なのか『特別な一杯』なのかわからなかったのだろう。
でも。やがて彼女が笑ってグラスを手にしてくれていた。
「ほんと、佐川君て。うまいね。こういうこと」
嬉しそうに飲んでくれたので、僕もそれだけでホッとした。
「ちょっと気が楽になった。やっぱり佐川君に聞いてもらって良かった。一人でもわかってくれる人がいれば、それだけで全然違うもんね」
まだ哀しい眼差しはするが、グラスを傾ける彼女にもう涙はなかった。
―◆・◆・◆・◆・◆―
翌日も、なんとなく孤立しているふうの美佳子ではあったが、以前通りにきちんとそつない仕事が出来る彼女に戻っていた。
「昨日は有り難う。ぐっすり眠れた」
「ふうん、それは良かった」
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