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「でもね、私。今は自分の心に嘘をついて、男の人と付きあいたくないの」
はっきり断る。今日の千夏が決めてきたこと。彼がいい人で千夏を本気で見てくれているから、だからこそはっきりとしたケジメを。だけれど、いつも微笑んでいる河野君が、また千夏を誘ってくれた時のように険しい顔で向かってくる。
「一生、佐川課長に献身的に仕事で捧げていくってことですか」
ものすごく不満そうな言い方。いつも笑っている彼の不機嫌な顔が、徐々に迫力ある怒り顔に変化していく。彼がまた本気で千夏にぶつかってこようとしている。だからしっかり心を構え、千夏も立ち向かう。
「それでも良いと思っている。それに私、男性と付きあうのはもう面倒なの。このまま好きな男性の為に頑張れたらそれだけでいいの」
「そんなの、一生続けられると思っているんですか。寂しくないんですか」
『寂しくない』。そう言い切りたいのに返せない自分がいた。そしてその一言に、千夏の心はいとも簡単に揺れていた。
どんなに強がっても、本気で佐川課長が好きでも。やはり報われない思いを一人で抱えていることは苦しいし、そして『虚しく寂しい』ことは確かだった。
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