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「もし、ここで河野君に甘えたら。私、頭の中では佐川課長を思い浮かべて、貴方のことなんて見ようとしないと思う。貴方に抱かれながら、課長を思う、きっとね」
ここまで言いたくなかった。でもここまで二人で突き詰めてしまったから、もう言うことはそれしかなかった。嘘じゃない。きっとそうなるだろうから。
車はいつのまにか市街に入り、千夏の自宅近くまで来ていた。空は夕暮れ茜の空。また西からどんよりとした薄黒い雲が迫ってきている。また今夜も雨なのだろうか。
「わかりました。落合主任らしいですね。都合良く付きあうことも出来るのに。正直にはっきり言ってくださって、有り難うございました」
あっという間にいつもの彼の微笑み顔に戻っている……。ホッとするはずなのに、何故か千夏の心が痛んだ。
「……三つ前の駅、でしたよね」
「ええ。そこで降ろして」
ハンドルを握りながらも、彼が俯いてしまう。
「直球でもダメなんですね。っていうか、俺、全然違うところにボール投げていた気分ですよ。正直、女心ってやつがわかんないです。なんつーか、完敗です」
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