イニング3 【 九回裏◇念ずればヒットする! 】

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 この人のために頑張っていく――。そう決めていた。彼が『僕と本部に行こう』と誘ってくれる前からだった。こういう人にこそついていこう。初めて千夏が職場で心底信じられると思った人だった。  今春、彼と転属してその気持ちは益々高まった。沢山の諸問題を残されたまま引き渡されたコンサル室だっただけに、とても困難な処理ばかりで心痛むことも多々起きる毎日だったが、だからこそ、それを彼と乗り越えられた時、または自分の力で彼が『助かった、有り難う』と言ってくれた時の喜びはひとしおだった。そういう充実感最高潮の日々だったのに……。彼が現れるまでは。  きっちりケジメをつけたのだから、元通りになったはずなのに……。  今日もいつもと変わらぬ淡々とした表情で、書類とデーターをチェックしている佐川課長の横顔を見つめる。なにか見つけたのか、眉間に皺を寄せ難しい顔。時に険しくなる鋭い眼差しは、穏やかな彼だからこそ途端に男っぽくなる瞬間。つい、千夏は全てを忘れて見とれてしまう……。いまだけ、この一瞬だけ。許して、と。 「落合主任、ちょっといいかな」
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