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ハッとして顔を上げた。今度見えた課長の顔は、なにもかもを包み込んでしまいそうないつもの穏やかな笑顔だったのだ。
しかし千夏はその彼の笑顔を見て愕然とする。許してもらえた? とんでもない! 『落合さんが出来る仕事はここまで。もう頑張らなくて良いよ』と諦められた笑顔だと思った。
「頑張ってなんか、いません」
もっと頑張れる。ここまでの女だなんて見限らないで。
「どうかしていたんです。私」
いつものように言って。『迂闊だったね。以後気をつけて』と。冷たく言った後、でも以後気をつけることで次に期待していると思わせるあの寛大で厳しい声を聞きたい。
「いや。このままじゃ駄目だと思うな、僕は」
また致し方ないような笑顔を見せられる。この人の為にやってきたのに。この人に見限られたら、私、私は……。
気が付くと、自分でも信じられないことが起きていた。涙が、熱い涙が一筋頬を伝っていたのだ。それは目の前にいる課長も意外だったのか、途端に困惑した表情に固まった。
「あの、直ぐに直しますから。それをこちらにください」
しかしまた彼の顔が強ばる。
「いや、駄目だ。これは僕が責任を持って直しておくから」
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