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僕のデスクで集めている書類を持ってきた隙に、美佳子からひとこと。そして僕も素っ気ない顔でひとこと。
僕も変わらない。宥め役で終わった一夜。そして美佳子も変わらない。自分の小さなセクションをまとめている小役人の主任男に、いつもどおり愚痴を聞いてもらって立ち直っただけ。
彼女が平常心を戻したのは嬉しいし、僕も楽しい時間を過ごせた。でも期待なんかしない。僕だっていい歳の男だ。小さな事で浮かれて勘違いなんかしたくない。
いつも通り。彼女のことが好きでも……。
だと、思っていた。
「佐川君って美味しいお店、いっぱい知っていそうだよね」
暫く日が経った頃だった。二人になった隙を見て美佳子からそう言ってきたのだ。
「あといくつ『ボンゴレ』を隠し持っているの」
ボンゴレを隠している――つまり『美味い店をどれだけ知っているのだ』という意味らしく、僕は笑い出しそうになったがデスクにいたのでなんとか堪える。
「なんか知らないと損している気になったきたのよね。なんとかしてよ」
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