イニング3 【 九回裏◇念ずればヒットする! 】

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「私がします!」 「駄目だ!」  辺りがシンとしたように思えた。そして当然、千夏も呆然としている。あの佐川課長が怒鳴った。背後のスタッフも業務をしつつも誰もが一瞬だけ息を止めたのが伝わってきた。 「今日はもういいよ」 「え……あの」  もう課長は千夏の目を見てくれなかった。失敗している書類に残念そうに伏せた眼差しを向けているだけ。険しい声で課長は容赦なく告げた。 「帰っていい。ここ数日の落合さんはいつもの落合さんではない。一回リセットしよう。今日はもう帰って休むんだ」  真っ白になる。彼の側にいて、彼の役に立つことが千夏の生き甲斐だというのに。その彼に『要らない、帰れ』と言われている。だが次にはいつもの穏和な彼の、千夏を優しく案じる眼差しが向けられる。 「だからって、もう来るなとか言っているんじゃないよ。いなくちゃ困るから言っているんだ。ここで頑張り続けても、今の落合さんには良いことはない。そう言っているんだ。一度、ゆっくりして明日でも明後日でもまた戻ってきてくれ」 「私、大丈夫です」 「大丈夫じゃないと僕が言っているんだよ。じゃあ、こう言えばいいのか。『課長命令』だって」
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