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彼がいないと頑張れない自分は、まだ大人じゃない。そう思った。『貴方がいなくちゃ、私、頑張れない』、千夏の頑張りは彼への依存に過ぎなかった。まるで愛を受け止めてもらえなかった少女のようにあっという間に崩れて泣いているだなんて……。
足早に下りる階段。涙を拭って、なんとか人に見られないよう会社を出ようと思った。
「落合主任……?」
下から聞こえてきたその声にハッとし千夏は階段の中腹で立ち止まる。見下ろすと、そこにはあの河野君が……。
「ど、どうしたんすか。なにか、あったんですか」
千夏の泣き顔を見て、困惑した顔。彼らしい心底心配してくれているとわかる目と合ってしまう。
こんな時、彼と話す気なんかない。説明する気もない。もう彼とはケリをつけたんだから、いちいち話したくない。ただすれ違うだけのただの同じ会社にいる人間同士に戻ったんだから。
なのに彼が長い足で階段を駆け上ってきて、千夏の前に立ちはだかった。
「千夏さん」
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